機械部品の設計や保全において、「摩耗」は部品の寿命や製品品質を左右します。摩耗とは、固体同士の接触と相対運動によって表面が徐々にすり減る現象です。駆動部品や軸受けなど、摩擦を伴う機構では摩耗への対策が求められます。
摩耗の進行は部品の寸法変化や性能低下を引き起こし、最終的には機器全体の信頼性にも影響を及ぼすおそれがある問題です。摩耗にはいくつかの種類があり、それぞれ発生のメカニズムや対策方法が異なります。
本記事では、摩耗の基本的な定義と発生の仕組み、代表的な摩耗形態とその特徴、さらに摩耗を抑制するための対策方法について解説します。摩耗に関する正しい知識を身につけ、部品の長寿命化やメンテナンスコストの低減に役立ててください。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
摩耗の定義と発生メカニズム

摩耗を正しく理解するには、まずその定義と表面接触のメカニズムを把握した上で、摩耗の進行に影響する各種因子を整理することが重要です。以下では、摩耗の基本概念から表面接触の特性、そして摩耗に関与する3つの因子の観点まで、順を追って解説します。
このセクションで解説する内容
- 摩耗の定義と耐摩耗性の基本
- 真実接触面積と摩耗発生の関係
- 摩耗に影響する3つの因子
ここでは、摩耗の基本概念について、専門用語をかみ砕きながら新人技術者にも理解できるよう順を追って解説します。
摩耗の定義と耐摩耗性の基本
金属の摩耗とは、金属がほかの固体との接触により発生する摩擦力により、表面が損傷したりすり減ったりする状態を指すとされています。
駆動部品や軸受けなど、摩擦の影響を受ける部品にとって、摩耗に対する耐性は製品の寿命を左右する特性とされています。この耐性は「耐摩耗性」と呼ばれ、摺動部を持つ機械部品の設計において基本的な評価指標の一つです。耐摩耗性が低い材料を摺動部に採用すると、短期間で部品の寸法精度が失われ、機器全体の性能低下を招くおそれがあります。
例えば、モータ内部のブラシと整流子が接触する箇所や、ギアの歯面同士がかみ合う箇所では、繰り返しの摺動によって材料が少しずつ失われていきます。摩耗が進行すると部品間のクリアランス(すき間)が広がり、振動や異音、動作不良の原因となる点に注意が必要です。設計段階で使用条件に応じた摩耗の発生を想定し、適切な材料選定や構造設計に反映させる取り組みが、製品の信頼性確保につながります。
真実接触面積と摩耗発生の関係
固体表面には微細な粗さやうねりがあり、平面同士であっても実際には突起同士が接触しています。突起同士が接触する部分は「真実接触部」と呼ばれ、その面積は見かけの接触面積より小さく荷重が集中するため、摩耗の発生に深く関わる箇所です。
真実接触面積と見かけの接触面積の違いを以下にまとめます。
| 項目 | 見かけの接触面積 | 真実接触面積 |
| 定義 | 部品同士が接触する外形上の面積 | 部品同士が接触する外形上の面積 |
| 面積の大きさ | 目視で確認できる範囲 | 見かけの接触面積の1/10~1/1000程度 |
| 荷重の分布 | 面全体に分散すると仮定 | 微小な突起部に荷重が集中 |
真実接触面積は、見かけの接触面積の1/10~1/1000程度で小さいとされています。見た目上は広い面で接触しているように見えても、実際にはごく狭い突起部だけで荷重を支えている状態です。突起部に集中した応力が材料の変形や破壊を引き起こし、摩耗粉として脱落する過程が、摩耗の基本的な発生メカニズムです。
表面粗さの値が大きい材料ほど突起の高低差が大きくなるため、真実接触面積はさらに小さくなり、局所応力が増大する傾向にあります。機械部品の設計では、摺動面の表面仕上げや加工精度を適切に管理し、真実接触面積を広げる工夫が摩耗抑制の第一歩となります。
摩耗に影響する3つの因子
摩耗には力学的因子、材料因子、環境因子の3つが影響します。これらの因子が複雑に関係し合うことで摩耗の進行度合いが変わるため、対策には多角的な検討が求められます。
【摩耗に影響する3つの因子】
- 力学的因子:荷重、接触圧力、剛性
- 材料因子:機械的特性、表面形状、表面粗さ
- 環境因子:温度、湿度、雰囲気
力学的因子では、荷重や接触圧力が大きいほど真実接触部での局所応力が増大し、摩耗が進む傾向にあります。部品の剛性が不足している場合には、接触面での変形が大きくなり、想定外の箇所で摩耗が発生するリスクも高まります。
材料因子では、硬度や靱性といった機械的特性に加え、表面粗さが突起の形状や分布を左右し、摩耗の起点となる接触状態に影響を与える要因です。一般的に、硬度が高い材料ほど耐摩耗性は向上するとされていますが、靱性(粘り強さ)が低い材料では亀裂が生じるおそれがあるため、硬度と靱性のバランスを考慮した材料選定が必要です。
環境因子では、高温環境下で材料が軟化したり、湿度や腐食性の雰囲気が化学反応を促進して摩耗を加速させたりするケースがあるといわれています。摩耗の対策を検討する際には、これら3つの因子を個別にではなく、使用環境全体を見渡して総合的に評価する姿勢が求められます。
摩耗の代表的な種類と特徴

摩耗は発生メカニズムによっていくつかの種類に分類されており、その中でも代表的な形態として凝着摩耗、アブレシブ摩耗、腐食摩耗、疲労摩耗が挙げられます。各形態は発生の仕組みや損傷パターンが異なるため、種類に応じた対策の選定が求められます。それぞれの特徴を正しく把握した上で対策を検討する姿勢が、摩耗トラブルの未然防止の基本です。
このセクションで解説する内容
- 凝着摩耗のメカニズムと2つの分類
- アブレシブ摩耗の2つの形態
- 疲労摩耗の特徴と代表的な損傷
以下では、機械部品やモータの設計と関連が深い凝着摩耗・アブレシブ摩耗・疲労摩耗の3形態について、それぞれのメカニズムと特徴を詳しく解説します。
凝着摩耗のメカニズムと2つの分類
凝着摩耗とは、摺動面の微小な凹凸が摩擦の熱や圧力によって金属結合(凝着)を起こし、摩擦運動によるせん断でその一部がちぎれて相手側に付着することで摩耗が進む現象です。特に同じ材料同士で起こりやすい点が特徴です。凝着のメカニズムとしては、真実接触部で材料同士が結合し、せん断力が加わった際に材料内部の一部がちぎれて摩耗粉として発生する過程が、トライボロジー(摩擦・摩耗の科学)の分野で広く認識されています。
凝着摩耗は、その激しさによって2つの形態に大別されます。
| 分類 | 特徴 |
| シビア摩耗 | 摩耗量が大きく、表面に深い傷や大きな摩耗粉が発生する。激しい場合は焼き付きの一因となる |
| マイルド摩耗 | 摩耗量が比較的少なく、表面が滑らかに摩耗する。摩耗粉は微細で酸化物を含む |
シビア摩耗では摩耗粉が粗大で金属光沢を持ち、摩耗面にも深い溝や大きな凹凸が現れます。一方、マイルド摩耗では摩耗粉が微細な酸化物となり、摩耗面は比較的平滑に保たれます。凝着摩耗がシビア摩耗の段階まで進行すると、焼き付きとして現れるケースがあり、部品の動作停止につながるおそれがある点に注意が必要です。摺動部品の材料選定では、異種金属の組み合わせや表面処理によって凝着の発生を抑える検討が有効です。
アブレシブ摩耗の2つの形態
アブレシブ摩耗は、硬い材料の表面突起が柔らかい摺動面を削り取る「二体摩耗」と、硬い固形粒子が材料間に入り込み表面を削る「三体摩耗」の2つに分類されます。引っかき摩耗や研削摩耗とも呼ばれ、凝着摩耗と比較して摩耗率が大きい傾向にあるのが特徴です。
【アブレシブ摩耗の2つの分類】
- 二体摩耗:硬い材料の表面突起が、柔らかいほうの摺動面を直接削り取る形態
- 三体摩耗:硬い固形粒子(摩耗粉や異物)が材料間に入り込み、表面を削り取る形態
二体摩耗は、柔らかいほうの部材に硬いほうの部材が食い込んで発生する摩耗であるため、摺動面の硬度バランスを考慮した材料選定が対策の基本となります。例えば、硬度が大きく異なる金属同士を摺動させると、柔らかい側の表面が一方的に削られる状況が生じます。
三体摩耗は、硬質の摩耗粉や外部からの異物混入が原因であるため、摺動面への粒子侵入を防ぐシール構造や、定期的な異物除去の仕組みを取り入れる対策が効果的です。加工現場や粉塵の多い環境で稼働する機器では、三体摩耗のリスクが高まるため、防塵対策と併せた摩耗管理が求められます。
疲労摩耗の特徴と代表的な損傷
疲労摩耗は、繰り返しの接触応力によって材料表面に微細な亀裂が生じ、やがて表面が剥離して摩耗が進行する現象です。作動と停止の繰り返しにより金属が疲労した結果として発生する摩耗であり、転がり接触面で多く見られます。軸受けやギアの歯面など、繰り返し荷重を受ける部品で発生する傾向があるとされています。
疲労摩耗による代表的な損傷形態には、うろこ状に剥離するフレーキングと、大きく面状に剥離するピーリングの2種類があります。フレーキングは軸受けの転動面で発生する代表的な損傷であり、転動体が通過するたびに表面下に蓄積された応力が限界を超えた段階で、うろこ状の剥離として現れます。ピーリングはフレーキングよりも広い面積で表面層が剥離する現象であり、高荷重条件下で発生しやすい点が特徴です。
凝着摩耗やアブレシブ摩耗と異なり、疲労摩耗は短期間では目立った変化が現れにくく、一定の繰り返し回数を超えた段階で急速に進行する特性があります。外観上は異常が見られなくても、材料内部では亀裂が進展している場合があるため、目視検査だけでは疲労摩耗の兆候を見逃すおそれがあります。モータの軸受けやギアードモータの歯面など、長期間にわたって繰り返し荷重を受ける部品では、設計段階で疲労寿命を見積もり、定期的な点検計画への反映が不可欠です。
摩耗への対策方法とモータの長寿命化

摩耗による部品の劣化を抑えるには、摩耗の種類に応じた適切な対策の選定が不可欠です。モータにおいては、ブラシの有無によって摩耗の発生メカニズムと寿命の考え方が異なります。ここでは、一般的な摩耗対策の考え方から、モータにおける摩耗の課題と解決策まで順を追って解説します。
このセクションで解説する内容
- 摩耗の種類別の対策方法
- ブラシ付きモータにおけるブラシ摩耗の影響
- ブラシレスモータによる摩耗課題の解消
ここでは、前半で一般的な摩耗対策を種類別に整理し、後半でモータにおける摩耗の課題とブラシレスモータによる解決策について解説します。
摩耗の種類別の対策方法
摩耗対策は種類ごとに異なります。凝着摩耗には異種金属の使用や潤滑材の活用、表面処理が有効です。アブレシブ摩耗には材料の硬度を高める方法や摺動面への固形粒子の混入防止が効果的です。腐食摩耗には耐食性の高い材質選定やめっき・コーティングなどの表面処理が対策として挙げられます。
主な摩耗形態と対策の対応関係を以下にまとめます。
| 摩耗の種類 | 対策方法 |
| 凝着摩耗 | 異種金属同士の組み合わせ、潤滑材の使用、表面処理の適用 |
| アブレシブ摩耗 | 材料の硬度を高める、摺動面への固形粒子の混入を防ぐ |
| 腐食摩耗 | 耐食性の高い材質の選定、めっき・コーティングなどの表面処理 |
| 疲労摩耗 | 繰り返し応力の低減、疲労寿命を考慮した材料・構造設計 |
耐摩耗性が低い素材であっても、加工によって表面の仕上がりを調整し、摩擦が生じにくい形状にする手法で摩耗の影響を抑えられるとされています。例えば、研磨加工で表面粗さを低減させたり、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングで摺動面の硬度と滑り性を同時に向上させたりする手法が、幅広い摺動部品で採用されています。使用環境や摺動条件に合わせて、材料選定と表面処理を組み合わせた対策を検討してください。
*当社製品では一部対応出来ない対策があります。
ブラシ付きモータにおけるブラシ摩耗の影響
ブラシ付きモータでは、ブラシと整流子が常に接触した状態で回転するため、摩擦によって双方が徐々にすり減ります。ブラシが摩耗すると整流子との接触を維持できなくなり、電気が正常に流れず、モータは正常に動作しなくなります。
ブラシ摩耗を引き起こす要因は、物理的な接触による摩擦だけではありません。
【ブラシ摩耗を促進する主な要因】
- 物理的な接触による摩擦
- 電流密度の変化に伴う発熱
- スパーク(火花)による表面の溶融
物理的な摩擦は、ブラシと整流子が常時接触している以上、避けられない要因です。加えて、モータの回転に伴い電流の流れる経路が切り替わる際に電流密度が変化し、接触部に局所的な発熱が生じます。さらに、切り替え時のスパーク(火花)がブラシ表面を溶融させ、摩耗を加速させるケースもある点に注意が必要です。
摩擦・発熱・スパークの3つの要因が複合的に作用してブラシの劣化が進行するため、ブラシ付きモータの寿命はブラシの摩耗状態に大きく依存します。長時間の連続運転や高負荷環境で使用する用途では、事前に使用される実機での十分な評価が必要となります。
ブラシレスモータによる摩耗課題の解消
ブラシレスモータは、ブラシと整流子を持たず電子回路で回転を制御する構造のため、ブラシ摩耗が発生しません。ブラシレスモータではブラシがないため、寿命、保守性、発塵性がブラシ付きモータよりも優れているとされています。モータの寿命はブラシ摩耗ではなく軸受寿命に起因するようになり、長寿命での運用が可能です。
ブラシ付きモータとブラシレスモータの摩耗に関する違いを以下に整理します。
| 比較項目 | ブラシ付きモータ | ブラシレスモータ |
| ブラシ・整流子の摺動 | あり(常時接触) | なし(電子回路で制御) |
| ブラシ摩耗 | 発生する(寿命の主要因) | 発生しない |
| 寿命を左右する要因 | ブラシの摩耗状態 | 軸受寿命 |
| 摩耗粉の発生 | あり | ほぼなし |
| 機械的接触 | 多い | 少ない |
かつては機械的な整流子を使って電流の方向を切り替えていたため、整流子が摩耗してしまう欠点があり、長寿命化は困難とされていました。半導体の普及により、電子回路が整流子の代わりを担えるようになったため、ブラシレスモータでは機械的整流子とは比較にならないほどの長寿命化が実現されています。
また、機械的接触が少ない構造は、摩耗粉の発生や摺動音・振動の抑制にも有効です。長時間の連続運転や摩耗粉を嫌うクリーンな環境での使用において、ブラシレスモータは有力な選択肢となります。
まとめ

摩耗とは、固体同士の接触と摩擦により表面がすり減る現象であり、凝着摩耗・アブレシブ摩耗・腐食摩耗・疲労摩耗などに大別されます。それぞれ発生メカニズムが異なるため、材料硬度の向上や潤滑材の使用、表面処理など、摩耗の種類に応じた対策の選定が必要です。設計段階で摩耗の発生を想定し、使用環境に合った材料や構造を採用する取り組みが、部品の長寿命化とメンテナンスコストの低減につながります。
モータにおいては、ブラシと整流子の摺動による摩耗が寿命を制約する課題がありますが、ブラシレスモータはブラシと整流子の摩耗を構造的に解消し、長寿命化を実現します。機械的接触が少ない構造のため、摩耗粉の発生や振動も抑えられ、長時間の連続運転やクリーンな環境での使用に適した設計です。
タキロンシーアイでは、長寿命かつ低振動を特徴としているブラシレスモータを取り扱っております。摩耗対策やモータ選定でお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
- 製品サイト:https://cik-ele.com/
- コアレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/coreless_motor/
- ブラシレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/brushless_motor/
- ギアードモータ:https://cik-ele.com/products/list/gearhead/
- エンコーダ:https://cik-ele.com/products/list/encoder/
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