製造ラインや産業機器に欠かせないモーターですが、運転中の発熱は避けられない現象です。しかし、過度な発熱はモーターの寿命を縮め、最悪の場合は故障や火災などの重大なトラブルを引き起こします。
モーターの発熱は銅損、鉄損、機械損といった損失が原因で発生し、それぞれに適切な対策が必要です。
本記事では、モーターが発熱する仕組みから、発熱時の対処法、さらには発熱を未然に防ぐ効果的な予防策まで、技術者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。
適切な熱管理によって、モーターの安全性と耐久性を高め、設備の安定稼働を実現しましょう。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
モーターが発熱する主な原因

モーターの発熱は主に銅損、鉄損、機械損という3つの損失から発生します。
この3要因の影響はモーター形式・設計・運転点で変わります。一般に小型では巻線抵抗の影響で銅損が支配的になりやすく、高速域では鉄損が増えやすい傾向です。これら3つの損失のメカニズムを理解することが、適切な発熱対策の第一歩となります。以下では、それぞれの損失について詳しく見ていきます。
このセクションで解説する内容
- 銅損による発熱
- 鉄損による発熱
- 機械損による発熱
各損失には異なる発生メカニズムがあり、モーターの種類や運転条件によって影響度が変わります。特に小型モーターを扱う開発現場では、銅損への対策が発熱抑制の鍵となります。
銅損による発熱
銅損はモーターコイルの巻線抵抗と流れる電流によって生じる電力損失です。
この損失は、電力P=I²R(電流の二乗×抵抗)で表され、電流の二乗に比例します。
そのため理論上は、電流を半分にすると銅損による発熱は約4分の1に減少します。
用途や設計条件によって異なりますが、コイルに大電流が流れるモーターでは特に銅損が発熱の主な原因となるケースが多く、発熱対策の重要項目です。
【銅損を低減する設計手法】
- 線径(断面積)を増やす
- 占積率を上げる
- 巻線長を短くする
- 銅材の純度や処理を最適化
これらの手法を組み合わせることで、巻線抵抗を効果的に低減し、銅損による発熱を抑制可能です。医療機器や光学機器に使用される小型モーターでは、設計段階での巻線最適化が性能向上と長寿命化につながります。
鉄損による発熱
鉄損は磁界の変化によって鉄芯に生じる損失で、ヒステリシス損と渦電流損から構成されます。
ヒステリシス損は磁化と消磁を繰り返す際に鉄芯内部で発生するエネルギー損失で、渦電流損は変動磁界によって鉄芯内に誘導電流が流れることで生じます。
鉄芯を持つモーターを高速動作させた際に顕著になる現象です。特に中大型モーターでは、積層鋼板を使用することで渦電流損を抑制しています。一方、コアレスモーターは鉄芯を持たない構造のため、ヒステリシス損や渦電流損といった鉄損は原理的に発生しません。
タキロンシーアイのコアレスモーターは、この構造的特性により高速回転時でも鉄損による発熱を抑えられる利点があります。
産業機器や光学機器で高速・高精度な動作が求められる用途では、鉄損のないモーター構造が有効な選択肢となるでしょう。
機械損による発熱
機械損はモーター内部の摩擦や空気抵抗などによって生じる損失です。
軸受とシャフトの接触部における摩擦熱や、回転による風損(空気抵抗による損失)が含まれますが、発熱全体に占める割合は比較的小さいです。モーターの種類や運転条件によって異なりますが、一般的には全損失の3~12%程度となります。ただし、潤滑油やグリスが劣化した状態で運転を続けると、摩擦抵抗が急激に増加し、摩擦熱も大幅に上昇するおそれがあります。
セキュリティ機器や安全機器など、長期間メンテナンスフリーでの動作が求められる用途では、この機械損への配慮が必要です。
高品質な軸受やグリスの選定、定期的なメンテナンスによって機械損を最小限に抑えられます。
モーターの発熱がもたらす悪影響

モーターの過度な発熱は、単に温度が上がるだけでなく、モーター内部の構成部品に深刻なダメージを与えます。
発熱による影響は絶縁材料、機械部品、電気特性など多岐にわたり、最終的にはモーターの寿命短縮や突然の故障につながります。
医療機器や安全機器では、こうした故障が患者の安全や作業員の安全に直結するため、発熱がもたらす具体的な影響を正しく理解することが重要です。
以下では、発熱による代表的な悪影響について解説します。
このセクションで解説する内容
- 絶縁物とコイルの劣化
- 軸受とグリスの劣化
- 性能低下と効率悪化
これらの悪影響は相互に関連しており、一つの問題がほかの問題を引き起こす連鎖的な劣化につながります。発熱管理を適切に行うことで、これらのリスクを最小限に抑えられるでしょう。
絶縁物とコイルの劣化
コイル表面を覆う絶縁被膜は、高温環境下で劣化が進行します。
耐熱クラス(B・F・H 等)により許容温度は異なります。許容温度に近づくほど絶縁劣化が進みやすくなるため、設計上はクラスと温度上昇を踏まえた余裕が重要です。
絶縁被膜が損傷するとコイル間でショートが発生し、局所的に大電流が流れることで発熱がさらに悪化する悪循環に陥ります。最終的にはコイルの焼損や火災につながる危険性があり、特に密閉筐体内で使用されるモーターでは放熱が困難なため、被害が拡大しやすくなります。
医療機器や産業機器では、絶縁破壊による突然の機器停止は患者の生命や生産ラインの停止に直結するため、絶縁材料の耐熱性能と温度監視が極めて重要です。
軸受とグリスの劣化
高温状態が続くとグリスは粘度が低下して流出したり、逆にグリスが硬化したりして潤滑性能が低下し、その機能を失います。
油膜切れが生じると金属同士の直接接触が発生し、摩擦抵抗の増大がさらなる摩擦熱を生み、温度が上昇するという悪循環に陥ります。最悪の場合、軸受が焼きついてシャフトがロックし、モーターが完全に停止する事態になります。
セキュリティ機器の電子錠や医療機器の駆動部など、連続稼働や長寿命が求められる用途では、軸受とグリスの熱劣化対策が不可欠です。
高温環境下でも性能を維持できる高品質グリスの選定や、定期的な交換メンテナンスが軸受寿命の延長につながります。
性能低下と効率悪化
発熱によってコイルの電気抵抗が増加し、電流が流れにくくなるため出力トルクが低下します。
銅線の抵抗は温度上昇とともに増加する特性があり、温度が10℃上がるごとに抵抗値は約4%増加する性質です。また、永久磁石を使用するモーターでは、高温になると熱減磁により磁力が弱まり、モーター性能が著しく低下します。
ネオジム磁石はグレードにより許容温度が異なり、標準グレードでは80℃付近から永久減磁が起こり得ます。フェライト磁石は高温に比較的強く、250℃程度が一つの目安です。電子部品も温度上昇により抵抗値が上がり、消費電力の増加と効率悪化を招きます。
光学機器のレンズ駆動モーターや産業用工具では、こうした性能低下が製品の精度や作業効率に直接影響するため、発熱による性能変化を設計段階で十分に考慮する必要があります。
モーターの発熱を抑える対策と防止法

モーターの発熱を抑えるには、冷却システムの導入、運転条件の最適化、適切なモーター選定という3つのアプローチがあります。
既存のモーターに対しては冷却ファンやヒートシンクによる放熱強化が有効で、運転方法の見直しによっても発熱を大幅に低減できます。
新規設計や機種変更の際には、発熱の少ないモーター構造を選択することで、根本的な解決が可能です。
以下では、それぞれの対策方法について具体的に解説します。
このセクションで解説する内容
- 冷却システムによる放熱強化
- 運転条件の最適化
- 発熱の少ないモーターへの変更
これらの対策は単独で実施するだけでなく、組み合わせることでより高い効果を得られます。特に発熱が課題となっている既存システムでは、段階的に対策を導入することで、リスクを抑えながら改善を進められるでしょう。
冷却システムによる放熱強化
冷却ファンによる強制冷却やヒートシンクの装着は、モーターからの放熱を効率的に促進します。
産業機械では冷却ファン付きモーターの採用により、長時間稼働時の過熱を防げます。
取付板を放熱性の高いアルミ材に変更したり、板厚を増やしたりすることも放熱効果を高める有効な手段です。
密閉筐体内で使用する場合は、筐体自体に放熱フィンを設けたり、内部に小型ファンを追加したりすることで空気の流れを作り出せます。
医療機器や光学機器など静音性が求められる用途では、ヒートパイプを活用した自然冷却方式も選択肢となります。ただし、冷却システムの追加はスペースやコストの増加を伴うため、設計段階での十分な検討が必要です。
運転条件の最適化
運転電流を低減することで、電流の二乗に比例する銅損を大幅に削減できます。
モーターの運転サイクルに余裕がある場合は、停止時間を長めに設定してモーターの冷却時間を確保しましょう。
過負荷状態を避け、定格トルク内での運転を徹底することも発熱抑制に重要です。
産業用工具やホビー製品では、使用パターンに応じてデューティサイクル(連続運転時間と休止時間の比率)を最適化することで、発熱を抑えながら必要な性能を維持できます。
電源電圧を適正値に設定することも、無駄な電流を減らして発熱を抑える基本的な対策となります。
ドライバ回路に電流制御機能がある場合は、負荷に応じて電流を最適化することで、さらなる発熱低減が可能です。
定期的な動作確認と温度測定を行い、異常な発熱の兆候を早期に発見することも、長期的な安定稼働に有効な手段です。
発熱の少ないモーターへの変更
ブラシレスモーターはブラシの摩擦損がなく、高効率化しやすい方式です。一方で放熱性は、インナー/アウターロータ構造、筐体形状、取付条件、熱の逃げ道(熱経路)などの設計要素によって大きく左右されます。
コアレスモーターは鉄芯がないため鉄損が発生せず、高効率で低発熱な運転が可能です。
タキロンシーアイのコアレスモーターは、この構造的特性により医療機器や光学機器など高精度が求められる用途で採用されています。また、同社のブラシレスモーターは長寿命・低振動(静音)などの特長があり、産業機器やセキュリティ機器などで活躍することが出来ます。
スペースが許せばモーターサイズを大きくすることで、同じ出力でも電流を下げて運転でき、発熱を抑えることが可能です。
新規設計や既存システムの改良時には、こうした低発熱モーターへの変更を検討することで、冷却システムの簡素化やメンテナンス頻度の削減が可能になります。
まとめ

モーターの発熱は銅損、鉄損、機械損という3つの損失から生じ、絶縁物劣化や軸受焼損、性能低下など深刻な影響をもたらします。
対策としては冷却システムの導入、運転条件の最適化、発熱の少ないモータータイプへの変更が有効です。特にコアレスモーターやブラシレスモーターは構造的に発熱を抑制でき、長寿命化にも貢献します。
タキロンシーアイでは、鉄損のないコアレスモーターや放熱性に優れたブラシレスモーターを提供し、お客様の用途に合わせた最適なソリューションをご提案しています。
適切な発熱管理によって、モーターの安全性と信頼性を高め、製品の安定稼働を実現しましょう。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
- 製品サイト:https://cik-ele.com/
- コアレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/coreless_motor/
- ブラシレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/brushless_motor/
- ギアードモータ:https://cik-ele.com/products/list/gearhead/
- エンコーダ:https://cik-ele.com/products/list/encoder/
お客様の製品開発における小型モータ選定でお困りの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。技術担当者が用途や要件をヒアリングし、最適なソリューションをご提案いたします。
- お問い合わせ:https://cik-ele.com/contact/







