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慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

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慣性モーメントは、回転体の「回しやすさ」や「止めやすさ」を示す物理量であり、モータの設計計算において必要な要素です。モータを選定する際には、負荷の慣性モーメントを正しく算出し、必要なトルクや加減速性能を見積もる作業が必要です。

慣性モーメントの見積もりを誤ると、モータの種類や条件によっては、起動・停止時のオーバーシュートやアンダーシュート、制御の不安定化、運転不能などにつながる可能性があります。

本記事では、慣性モーメントの基本的な定義やトルクとの関係式から、代表的な形状ごとの計算公式、さらにモータ選定で考慮すべきポイントまでを順を追って解説します。モータの設計や機器開発に携わるエンジニアの方は、参考にしていただければ幸いです。

 
監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ

1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。

 

慣性モーメントの基本とトルクの関

慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

慣性モーメントの定義と関係式、単位について、直線運動との対比を交えて解説します。

このセクションで解説する内容

  • 回転運動における慣性モーメントの定義
  • トルクと角加速度の関係式
  • 単位kg·m²とGD²の違い

慣性モーメントJ(学術文献ではIと表記される場合もありますが、本記事ではJで統一します)は、回転体がどれだけ回しにくいか、あるいは止めにくいかを示す物理量です。直線運動における質量に相当し、回転運動では慣性モーメントとトルク・角加速度を結ぶ関係式によって記述されます。

モータの設計計算では、この値を正確に把握することが、必要トルクの算出や適切なモータ選定の起点となります。

 

回転運動における慣性モーメントの定義

回転運動における慣性モーメントは、各質点の質量Mと回転軸からの距離Rの2乗の積の総和として定義されます。基本式はJ=MR²で表され、質量Mが同じでも回転軸から離れた位置に質量が集中するほど値は大きくなります。

直線運動では「質量が大きいほど動かしにくい」性質がありますが、回転運動では慣性モーメントが同じ役割を担います。慣性モーメントが大きい回転体ほど、回転の開始や停止に大きなトルクを必要とします。質点系ではJ=ΣMiRi²、連続体ではJ=∫R²dmで表されますが、実務ではあらかじめ導出された形状別の公式を使用するのが一般的です。

回転軸から離れた位置に質量が集中するほど、慣性モーメントの値は大きくなります。例えば、同じ質量の円盤でも直径が2倍になれば、慣性モーメントは4倍です。

直線運動では「質量が大きいほど動かしにくい」性質がありますが、回転運動では慣性モーメントが回しにくさを決定します。モータ選定においては、駆動対象の形状や質量分布から慣性モーメントを正しく算出する作業が設計の起点となります。

 

トルクと角加速度の関係式

トルクと角加速度の関係式は、回転運動の運動方程式

T=Jα(T:トルク[N·m]、J:慣性モーメント[kg·m²]、α:角加速度[rad/s²])

で表されます。

直線運動の運動方程式

F=Ma

をもとに、力(F)をトルク(T)、質量(M)を慣性モーメント(J)、加速度(a)を角加速度(α)にそれぞれ置き換えた式です。

この式から、慣性モーメントが大きいほど同じ角加速度を得るために必要なトルクも大きくなる関係が分かります。例えば、慣性モーメントが2倍の回転体を同じ時間で加速させるには、2倍のトルクが必要です。

モータの加速・減速時に必要なトルクを見積もる上で、T=Jαの理解は設計計算の基礎となります。負荷の慣性モーメントを正しく把握し、この式で必要トルクを算出する手順が、適切なモータ選定につながります。

単位kg·m²とGD²の違い

単位kg·m²とGD²の違いについて整理します。モータの技術資料では、慣性モーメントを国際単位(SI単位)系のJ(kg·m²)や、重力単位系のGD²(kgf·m²)で表記する場合があります。

項目kg·m²(国際単位系)GD²(重力単位系)
記号JGD²
定義式J=M×R²GD²=W×D²
単位kg·m²kgf·m²
換算関係J=GD²/4GD²=4J
使用場面現行の技術資料全般旧来のモータカタログ

GD²は「はずみ車効果」とも呼ばれ、かつてモータの設計計算で広く使われていた単位です。現在では国際単位系のkg·m²が標準ですが、モータメーカーのカタログには両方の表記が混在する場合があります。選定時に単位を取り違えると計算結果に4倍の誤差が生じるため、換算式J=GD²/4の正しい適用が求められます。

 

慣性モーメントの計算式と形状別の求め方

慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

慣性モーメントは本来積分によって求められますが、実務では形状ごとにあらかじめ導出された公式を使用するのが一般的です。

このセクションで解説する内容

  • 円筒と円盤の慣性モーメントの算出
  • 棒や直方体の慣性モーメントの算出
  • 減速機構を含むモータ軸換算の計算手順

円筒や円盤、棒、直方体といった代表的な回転体にはそれぞれ計算式が用意されており、対象物の質量・寸法・回転軸の位置が分かれば算出できます。

また、ベルトコンベアや減速機構など実際の機械系では、複数の回転体の慣性モーメントを合算してモータ軸に換算する計算も必要です。

 

円筒と円盤の慣性モーメントの算出

円筒と円盤の慣性モーメントは、モータのロータや円筒形状の部品などの計算に用いられます。質量Mと直径D(および内径d)が分かれば、以下の公式で算出できます。

形状計算式適用例
中実円筒(円盤)J=1/8×M×D²ロータ、フライホイール
中空円筒J=1/8×M×(D²+d²)カップリング、パイプ

計算例として、質量M=0.5kg、外径D=60mm(0.06m)、内径d=30mm(0.03m)の中空円筒形状部品の場合、J=1/8×0.5×(0.06²+0.03²)=1/8×0.5×0.0045≒2.8×10⁻⁴ kg·m²と求められます。

これらの公式は、ロータやカップリングなど円筒形状部品の慣性モーメント計算に用いられます。

 

棒や直方体の慣性モーメントの算出

棒や直方体の慣性モーメントは、アームやスライダなど、回転機構に含まれる棒状・直方体形状の部品を計算する際に必要です。棒の慣性モーメントは回転軸の位置によって値が変わり、以下の2つの公式を使い分けます。

【棒の慣性モーメント公式】

  • 端を回転軸にした場合:J=1/3×M×L²
  • 中心を回転軸にした場合:J=1/12×M×L²

端を軸にした場合のほうが値は4倍大きくなります。ロボットアームの関節部など、回転中心と部品の重心位置が異なるケースでは、機構の回転軸がどこに設定されているかを正確に把握した上で、対応する公式を選択する必要があります。

 

減速機構を含むモータ軸換算の計算手順

減速機構を含むモータ軸換算の計算は、モータと負荷の間に減速機が介在する機械系で必要となります。負荷側の慣性モーメントをモータ軸に換算する式はJm=JL/i²(Jm:モータ軸換算負荷慣性モーメント、JL:負荷慣性モーメント、i:減速比)で表されます。

例えば、負荷慣性モーメントが1.0×10⁻³ kg·m²で減速比が2の場合、モータ軸換算値はJm=1.0×10⁻³/4=2.5×10⁻⁴ kg·m²です。減速比が2の場合、負荷慣性モーメントのモータ軸換算値は負荷側の1/4になります。なお、減速比iの定義はメーカーにより異なるため、Jm = JL / i² と Jm = JL × i² は、どちらも同じ内容を別の表し方で示したものです。減速比iの基準に注意が必要です。

減速比の表記はカタログごとに確認し、各メーカーが示す定義に合わせて換算式を適用する必要があります。

 

慣性モーメントを考慮したモータ選定の3ステップ

慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

慣性モーメントの値を正しく算出した後は、その値をもとにモータを選定する工程に入ります。

このセクションで解説する内容

  • 負荷慣性モーメントと必要トルクの算出
  • イナーシャ比の確認と制御安定性の確保
  • ギアードモータの活用による負荷イナーシャへの対応

モータ選定では、負荷慣性モーメントの算出、必要トルクの計算、イナーシャ比または許容負荷慣性モーメントの確認の3つのステップを順に進める必要があります。回転速度を変化させる運転では、定常運転時のトルクに加えて加速・減速に伴うトルクも考慮する必要があるため、各ステップを順に踏むことが適切な選定につながります。

 

負荷慣性モーメントと必要トルクの算出

負荷慣性モーメントと必要トルクの算出は、モータ選定における最初のステップです。駆動対象となる機構全体の負荷慣性モーメントを求めるには、機構部品(プーリー・テーブルなど)と搬送物それぞれの慣性モーメントを計算し、合算して全負荷慣性モーメントJLを算出します。

全負荷慣性モーメントJLが求まった後は、加速時間と目標回転数から角加速度αを算出し、T=Jαの式で加速トルクを求めます。加速トルクに加え、摩擦トルクなど定常運転時に必要な負荷トルクも合算した値が、モータに求められる総トルクです。起動・加速を伴う運転では、負荷トルクに加えて加速トルクも見込んで必要トルクを算出する必要があります。

 

イナーシャ比の確認と制御安定性の確保

イナーシャ比とは、負荷慣性モーメントをモータのロータ慣性モーメントで割った値です。この比率がモータの推奨範囲を超えると、加速指令に追従できず脱調や動作不安定を招くおそれがあります。

モータの種類によって、推奨されるイナーシャ比や許容慣性モーメントの上限は異なるため、選定時には使用するモータのカタログや技術資料に記載された推奨値を確認し、その範囲内に収めることが選定の基本です。

加減速トルクに余裕がある場合でも、イナーシャ比が推奨範囲を超えると脱調や動作不安定を招くおそれがあります。一方、安全率を過度に高く設定するとオーバースペックとなり、モータサイズやコストの面で不利です。用途に応じた適切な範囲での選定が求められます。

 

ギアードモータの活用による負荷イナーシャへの対応

ギアードモータの活用は、負荷慣性モーメントがモータの許容値を超える場合に有効な手段です。減速機を介すると、モータ軸上の慣性モーメントは減速比の2乗で低減されるため、小型のモータでも大きな負荷を駆動することが可能です。例えば減速比が2の場合、モータ軸換算の負荷慣性モーメントは負荷側の1/4になります。

ただし、減速比を大きくするとモータの出力回転数は低下するため、目標回転数とのバランスを考慮した設計が求められます。負荷慣性モーメントが大きい場合は、減速機構を組み合わせることも有効な選択肢です。

製品仕様や適用条件は、各メーカーの製品ページや問い合わせ窓口で確認する必要があります。タキロンシーアイでは、コアレスモータやブラシレスモータにギアヘッドを組み合わせたギアードモータを提供しており、用途や要件に合わせた構成の提案にも対応しています。

 

まとめ

慣性モーメントとは?モータ設計に必要な計算式と選定の考え方

慣性モーメントは、回転体の回しやすさ・止めやすさを示す物理量であり、モータの設計計算において必要トルクの算出や制御安定性の確保に直結する要素です。基本式T=Jαの理解から、形状別の計算公式の活用、さらにイナーシャ比の確認やギアードモータの活用まで、正しい手順を踏めば適切なモータ選定が可能です。

回転速度を変化させる運転では、慣性モーメントの大きさに応じて加速トルクや減速トルクが大きくなります。慣性モーメントを考慮したモータの設計や選定でお悩みの方は、タキロンシーアイまでお気軽にご相談いただけます。

 

 

製品情報・お問い合わせ

タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。

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