産業機器や医療機器、ロボティクスなどの分野では、機器の小型化と必要なトルクの確保を両立させる設計が、製品性能を左右します。「同じサイズのまま、もう少しトルクを上げられないか」「小型化を進めたいが負荷に耐えられるか不安」といった悩みは、開発現場で繰り返し向き合う設計テーマです。本記事では、小型高トルクモータの基本的な仕組みから、トルクを高める代表的な手法、主な用途、そして選定時に押さえておきたい確認点までを整理して解説します。あわせて、設計現場でよく寄せられる疑問もQ&A形式でまとめました。モータ選定や社内検討の資料づくりを進める際の参考として、お役立ていただける内容です。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
小型高トルクモータの基礎知識

小型高トルクモータを選定する場面では、まず基本となる用語と数値の感覚をそろえておくと、その後の手法比較や用途検討が円滑に進みます。トルクの意味、小型モータと呼ばれる範囲、そして小型化と高トルク化を同時に求めることは、設計判断を支える前提知識です。本章では、技術論やトルク向上策の理解につながる基礎を、3つの観点から順に確認していきます。
このセクションで解説する内容
- 小型高トルクモータとは
- トルクの基本と単位
- 小型化と高トルク両立の意義
これらを順にたどることで、用語の定義から設計上の意義までがつながり、トルク向上手法を読み解く準備が整います。
小型高トルクモータとは
小型高トルクモータとは、回転する力であるトルクが大きく、限られたサイズで設計されたモータを指します。高トルクモータは、回転する力が大きいモータと位置づけられています。一方、小型モータには業界で統一された明確な定義が存在しません。出力100W以下を小型モータ、3W以下を超小型モータと呼ぶ例もありますが、定義そのものは明確ではないとされています。本記事では、小さなサイズと大きなトルクを併せもつモータを対象として整理します。タキロンシーアイが手がけるマイクロモータは、後述のとおりmN・mレベルのトルクを扱う領域に位置するモータです。N・mレベルの大型産業用モータとは設計の前提が異なるため、小型機器の中での高トルクを前提に読み進めると理解が深まります。
トルクの基本と単位
トルクとは、軸にかかる回転方向の力(力のモーメント)を指す指標です。FA分野の技術用語解説では、トルクを軸まわりに働く回転方向の力と定義し、単位は国際単位系(SI)のN・m(ニュートンメートル)です。N・mは計量単位令にもとづき、1m離れた点へ直角方向に1Nの力を加えたときの力のモーメントと定義されています。小型モータの領域では、N・mよりも小さなmN・mが扱われます。両者の関係は以下のとおりです。
| 単位 | 読み方 | 大きさの関係 |
| N・m | ニュートンメートル | 力のモーメントを表す国際単位系(SI)の組立単位 |
| mN・m | ミリニュートンメートル | N・mの1000分の1の大きさ |
マイクロモータが発揮するトルクはmN・mレベルにとどまり、大型モータが扱うN・mとは桁が異なります。小型機器の駆動源を検討する際は、単位の感覚をそろえておくと、必要トルクの見積もりや製品比較の精度が高まります。
小型化と高トルク両立の意義
小型化と高トルク両立の意義について解説します。モータは基本的に、サイズが大きいほど大きなトルクを生み出す傾向があります。サイズを変えずに高トルク化を実現できれば、大きなサイズのモータと同じトルク性能を、小型のモータで代替する設計が可能です。スマートフォンや掃除機、ドライヤーなど、身近な機器の多くにモータが搭載されています。機器の小型化が進むほど、内部に組み込めるモータの寸法にも制約を受けます。その制約の中でも必要なトルクを確保する設計が、機器全体の小型化と性能維持を両立させるための目標です。医療機器や精密機器のように設置スペースが限られる分野では、小型でありながら十分なトルクを発揮するモータが、製品設計の自由度を広げる存在となります。
小型高トルクモータでトルクを上げる方法

モータのトルクは、内部の電磁設計と、外付けの減速機構によって決まります。サイズを保ったままトルクを高めるには、これらの要素を組み合わせて最適化する設計が求められます。トルクを上げる方法は、複数の観点で整理が可能です。本章では、その考え方を踏まえ、小型モータでの代表的なトルク向上策を3つの観点に分けて解説します。
このセクションで解説する内容
- 磁石とコア材料の最適化
- 巻線とエアギャップの工夫
- ギアードモータによる低速・高トルク化
内部設計からのアプローチと外付け機構からのアプローチを並べて見ていくと、自社の用途に合うトルク向上策を選び分ける視点が得られます。
磁石とコア材料の最適化
磁石とコア材料の最適化は、モータ内部の電磁設計からトルクを高める手法です。トルクを左右する内部要素として、以下の2点が挙げられます。
| 要素 | トルク向上への寄与 |
| 磁石の見直し | より強い磁力をもつ磁石へ変更してトルクを高める |
| コア材料の改善 | 高透磁率の電磁鋼板を採用し磁束密度を向上させる |
磁石にはフェライト、ネオジム、サマコバなどの種類があり、ネオジム磁石は強い磁力をもつ一方で熱に弱く、標準的な品種では80℃程度を使用温度の目安とするのが一般的とされています。コア材料については、透磁率の高い材料ほどコアの電磁石としての機能が高まり、高トルク化につながる特性です。磁石とコア材料を用途の温度条件に合わせて選ぶと、サイズを保ったままトルクを引き上げる設計に近づきます。
巻線とエアギャップの工夫
巻線とエアギャップの工夫も、内部設計からトルクを高める手法です。巻線では、コイルの巻数を増やしたり、巻線径を太くしたりすると、電流や磁束が増えてトルクの上昇につながります。巻線径を太くした場合、その2乗に比例して起動トルクと起動電流が増加します。あわせて、ある限界範囲を超えると2乗比例の関係は崩れていく傾向です。エアギャップとは、回転子と固定子の間にある隙間を指します。エアギャップを狭くするほど磁力の影響を大きく取り込めます。巻線とエアギャップは相互に関係するため、両方をあわせて調整する設計が有効です。
ギアードモータによる低速・高トルク化
ギアードモータによる低速・高トルク化は、外付けの減速機構からトルクを高める手法です。ギアードモータは、モータとギアヘッド(減速機)を組み合わせた製品で、減速比に応じて出力トルクを大きくできます。ギアヘッド取付時の出力トルクは「Tout=Tin×i×η」(出力トルク=入力トルク×減速比×伝達効率)の式で求められます。出力トルクは減速比に比例して大きくなる一方、回転数は減速比に応じて低下する関係です。モータとギアボックスを一体にすると回転数は落ちるものの高いトルクが得られるため、回転数を踏まえた最適設計が求められます。タキロンシーアイのギアードモータは、コアレスモータやブラシレスモータにギアヘッドを組み合わせた製品で、小型機器で低速かつ高トルクを確保したい場面の選択肢となります。
小型高トルクモータの主な用途と選定の確認点

小型高トルクモータは、医療機器や産業機器など、限られたスペースで必要なトルクを求める分野で広く活用される製品です。実際に採用へ進めるには、用途の把握に加え、選定時の確認項目と設計現場の疑問への答えをそろえておくと、検討が円滑に進みます。本章では、代表的な用途、選定で押さえたいポイント、そしてよくある質問の順に解説します。
このセクションで解説する内容
- 小型高トルクモータの主な用途
- 小型モータ選定時に確認すべきポイント
- 小型高トルクモータのよくある質問
用途の理解から選定の確認、現場の疑問解消までを順にたどると、社内検討の資料づくりに使える判断材料がそろいます。
小型高トルクモータの主な用途
小型高トルクモータの主な用途は、限られたスペースでmN・mレベルの精密なトルク制御が求められる領域に広がっています。代表的な活用分野として、以下が挙げられます。
【小型高トルクモータの主な活用分野】
- 医療機器(内視鏡、カテーテル)
- 産業機器(電動工具)
- 光学機器(レンズ駆動系)
- セキュリティ機器(電子錠)
高トルクモータの用途は、産業機械やロボティクス、医療機器など幅広い分野に及びます。中空シャフト型の超小型モータは、OCTや内視鏡といった医療・産業分野での活用が期待されています。分野ごとに求められるトルクや回転数は異なるため、用途の要件を起点にモータを選ぶ流れが設計検討の基本です。
小型モータ選定時に確認すべきポイント
小型モータを選定する時に確認するべきポイントは、必要なトルクや回転数、電源条件、寿命、サイズを総合的に見比べる視点です。小型モータを選ぶ際は、それぞれの特徴や性能、特性を比較する視点が求められます。あらかじめ確認しておきたい主な項目を、以下に整理します。
| 確認項目 | 内容 |
| トルクと回転数 | 必要なトルクと回転数のバランスを把握する |
| 電源条件 | 駆動電圧や電流が供給範囲に収まるか確認する |
| 使用環境 | 温度など稼働環境の条件を踏まえる |
環境温度が上昇すると巻線抵抗が増し、マグネットの磁力が低下して起動トルクが下がるとされています。使用環境の温度まで踏まえて条件を整理すると、実機での性能を見誤らないモータ選定につながります。
小型高トルクモータのよくある質問
小型高トルクモータの検討にあたって、よく寄せられる疑問をQ&A形式で整理します。
Q1.サイズを変えずにトルクを上げられますか。
A.上げられます。磁石や巻線、エアギャップ、コア材料、コア積層高さの見直しにより、サイズを保ったままトルク向上が可能とされています。
Q2.ギアで減速してトルクを稼ぐ設計は妥協策ですか。
A.妥協策とは限りません。ギアによる減速は高トルク化の有効な手段になります。ただし精度や騒音、寿命とのバランスを踏まえた設計が求められます。
Q3.高トルク化を進めると発熱が増えますか。
A.増えます。トルクを高めるには電流の増加を伴い、巻線での損失が発熱として現れます。
Q4.電源やドライバが起動時の限界になる理由を教えてください。
A.モータの起動時には定格電流の数倍に達するピーク電流が流れます。電源の過電流保護が動作すると出力電圧が下がり、印加電圧の低下によってトルクが落ち、起動時に最大トルクを取り出せなくなります。
設計現場で問題になりやすい論点を、トルク向上策と電源条件の両面から切り分けると整理が容易です。
まとめ

本記事では、小型高トルクモータの基本概念から、トルクを高める代表的な手法、主な用途と選定の確認点、よくある質問までを整理しました。サイズを保ったままトルクを高めるには、磁石・コア・巻線といった内部設計の最適化と、ギアードモータによる減速の組み合わせが有効な手段となります。あわせて、用途ごとの要件整理や使用環境の温度条件などは、選定時に押さえておきたい確認事項です。タキロンシーアイ株式会社では、用途に合わせたマイクロモータの仕様検討やカスタム対応にも応じています。設計検討でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
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