モータが回転している間、出力されるトルクは完全には一定になりません。瞬間的なトルクはわずかな増減を周期的に繰り返し、回転力の変動として現れます。周期的なトルク変動が「トルクリップル」です。トルクリップルが大きい状態では、振動や騒音、位置決め精度の低下、制御性の悪化といった形で機器の性能に影響します。特に医療機器や光学機器、産業用ロボットなど、滑らかさや精度が品質に直結する分野では、無視できない技術課題です。本記事では、トルクリップルの基本的な意味やコギングトルクとの違いを整理したうえで、発生する主な要因と、設計・制御・モータ選定の観点からの低減方法を順に解説します。小型モータの選定や設計検討の参考になる内容です。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
トルクリップルとは?基本知識の整理

トルクリップルへの対策を検討する前に、現象そのものの理解が必要です。言葉の意味、よく似た用語との区別、数値としての捉え方を押さえておけば、後半で扱う発生要因や低減策の理解がスムーズに進みます。本章では、トルクリップルの基礎知識を3つの観点から整理し、記事全体を読み進めるための前提を整えます。
このセクションで解説する内容
- トルクリップルの基本的な意味
- トルクリップルとコギングトルクの違い
- トルクリップルの測定と評価方法
用語の定義から評価の尺度まで、3つの視点を順に確認していきます。
トルクリップルの基本的な意味
トルクリップルとは、モータが回転している間に出力されるトルクが一定にならず、周期的に変動する量を指します。一定の速度で運転しているように見えても、瞬間的なトルクは回転位置や電気的な条件によって絶えず揺らいだ状態です。トルクセンサで1回転分のトルクを連続計測すると、平均値の周囲を上下に波打つ波形が現れます。この波形の振れ幅がトルクリップルにあたり、値が大きいほど回転は滑らかさを欠く状態です。振動や騒音、位置決め精度の低下、制御性の悪化といった性能面の課題は、トルクリップルを起点として整理できる場面が多くあります。モータの動作品質を検討するうえで、まず押さえておきたい基礎的な現象です。
トルクリップルとコギングトルクの違い
トルクリップルとコギングトルクの違いは、発生する条件にあります。コギングトルクは永久磁石モータで電流が流れていない無通電状態でも生じるトルク変動です。トルクリップルは通電して駆動している状態で観測されるトルク変動全般を指し、コギングトルクに加えて電流波形の歪みや制御の影響も含みます。両者の主な違いは以下のとおりです。
| 項目 | コギングトルク | トルクリップル |
| 発生条件 | 無通電状態でも発生 | 通電・駆動状態で発生 |
| 主な原因 | 鉄芯と磁石の構造 | 構造に加え電流・制御の影響 |
| 含まれる範囲 | トルクリップルの一成分 | コギングトルクを含む全体 |
コギングトルクはトルクリップルを構成する一成分であり、両者は包含の関係にあります。駆動中のトルク変動を評価する場面では、コギングトルク単独ではなく、トルクリップル全体を見る視点が必要です。混同を避け、現象を正しく切り分けて捉える姿勢が、後続の要因分析につながります。
トルクリップルの測定と評価方法
トルクリップルの測定と評価では、1回転中の最大トルクと最小トルクの差を平均トルクで割った百分率として表す方法が一般的です。パーセンテージで示せば、モータの種類や容量が異なっても変動の度合いを共通の尺度で比較できます。実際の評価で用いられるのは、トルクセンサによる直接測定です。
さらに相電流や振動を同時に計測すると、トルク変動の大きさだけでなく発生原因の切り分けにもつながるため、トルクリップルの把握に向けた実用的な計測手法といえます。数値と波形の両面から測定する手順を踏めば、現象の把握と原因究明を一体的に進められます。
トルクリップルが発生する3つの主な要因

トルクリップルは単一の原因で生じるわけではなく、複数の要因が組み合わさって現れます。発生のしくみを要因ごとに切り分けて捉えることが、現場での課題の見極めや、後半で扱う低減策の検討に活かせる視点です。本章では、トルクリップルを生み出す代表的な3つの要因を、構造・電気・磁界の3つの観点から順に整理します。
このセクションで解説する内容
- コギングトルクが含まれている
- 電流波形に高調波が含まれている
- 磁束密度に高調波成分が含まれる
設計と制御の両面に改善の余地があるという前提で、3つの要因を確認していきます。
コギングトルクが含まれている
コギングトルクは、永久磁石を用いるモータで電流が流れていない無通電状態でも発生する周期的なトルク変動です。鉄芯の歯(ティース)と永久磁石が引き合う位置関係が回転とともに変化し、トルクの脈動として現れます。1回転中のサイクル数は、磁極数とスロット数の最小公倍数に一致する関係です。コギングトルクには以下の特徴があります。
【コギングトルクの特徴】
- 無通電状態でも発生
- 固定子スロットと磁石起磁力高調波の相互作用
- 磁極数とスロット数の最小公倍数で決まる周期
無通電時の脈動は、駆動を始めるとトルクリップルの一成分として重畳されます。構造そのものに起因するため、トルクリップルを語るうえで最初に押さえる要因に位置づけられます。
電流波形に高調波が含まれている
電流波形に高調波が含まれている状態も、トルクリップルを増やす要因です。インバータでモータを駆動する場合、配線条件などの影響で電流波形に歪みが生じ、トルクリップルが増大するケースがあります。トルクは電流と磁束の積で決まるため、電流波形が理想的な正弦波からずれると、ずれの分だけトルクも揺らぎます。
インバータの基本制御方式であるPWM制御は、半導体スイッチのオン・オフでモータへの印加電圧を作り出すしくみです。スイッチング動作にともない、電流にはパルスごとの細かな変動が含まれます。電流の変動が磁界の変動を介してトルクの揺らぎへ変わり、トルクリップルとして観測される現象です。電気的な入力側に起因する要因として整理できます。
※高調波:基本となる周波数の整数倍の周波数をもつ成分。波形の歪みの原因となります。
磁束密度に高調波成分が含まれる
磁束密度に高調波成分が含まれている状態は、磁界側の要因としてトルクリップルにつながります。空隙磁束密度に含まれる高調波は、電機子鎖交磁束の高調波の原因となり、最終的にトルクリップルとして現れます。空隙とは、回転子と固定子のあいだのわずかなすき間です。
背景には、永久磁石の起磁力高調波と空隙高調波の相互作用があります。磁界の分布が理想的な正弦波からずれると、回転に応じたトルクの脈動が生まれる現象です。磁界の分布には、極弧角や磁石形状、磁石配向といった設計要素が関わります。磁石まわりの設計に左右される磁界側の要因として、3つ目の要因です。
トルクリップルを低減する3つの方法

トルクリップルの発生要因が複数に分かれる以上、低減のアプローチも1つに限られません。設計の段階、制御の段階、そしてモータを選ぶ段階と、それぞれの場面で取り得る手段があります。本章では、トルクリップルを抑えるための代表的な3つの方法を、設計・制御・選定の流れに沿って整理します。
このセクションで解説する内容
- 電磁界解析でモータ設計を最適化する
- 制御で電流波形を整える
- コアレスモータを選定する
上流の設計から最終的な製品選定まで、3つの方法を順に確認していきます。
電磁界解析でモータ設計を最適化する
電磁界解析でモータ設計を最適化する手法は、トルクリップルの発生源を構造の側から小さくするアプローチです。コギングトルクや高調波成分の大きさは、磁極数とスロット数の組み合わせ、固定子や回転子のスキュー、磁石形状などの構造要素で変わります。設計現場では、電磁界シミュレーションを用いて複数の構成を数値で比較検討する方法が一般的です。試作前に構成ごとのトルク波形を予測できれば、変動の小さい設計案を絞り込めます。設計の初期段階から対策を織り込む進め方は、後工程での手戻りを抑える利点もあります。
※スキュー:固定子や回転子をらせん状に少しずつねじって配置する構造。磁石とスロットの噛み合いをずらし、トルクの脈動をならす効果があります。
制御で電流波形を整える
制御で電流波形を整える方法は、駆動中に生じる電流由来のトルク変動を抑えるアプローチです。広く採用されているのがベクトル制御です。モータに流れる電流をd軸成分とq軸成分に分け、トルクを生む成分だけを理想値に近づけるよう調整します。電流波形の乱れが抑えられれば、磁界の変動も穏やかになります。あわせて、PWMのキャリア周波数や駆動条件の見直しも有効な手段です。設計そのものを変えずに運用側で調整できる点が、制御によるアプローチの利点といえます。
コアレスモータを選定する
設計や制御の最適化に加え、要求特性に合うモータを選ぶ視点もトルクリップル低減に役立ちます。代表的な選択肢がコアレスモータです。鉄芯(コア)をもたない構造のため、磁石に吸引・反発される繰り返し動作が起きず、コギングがほぼ発生しません。コアレスモータの主な特長は以下のとおりです。
【コアレスモータの主な特長】
- 鉄芯のない構造によるコギングの抑制
- 回転ムラの少ない滑らかな回転特性
- 小さな振動と騒音・高い応答性
コア付き構造のモータではコギングトルクが発生する一方、コアレスモータは構造の段階でコギングの要因を抑えています。滑らかな回転や静粛性が求められる医療機器・光学機器・セキュリティ機器などの分野で、有力な選定候補になります。
まとめ

トルクリップルは、モータが回転中に出力するトルクが周期的に変動する現象です。発生の背景には、無通電状態でも生じるコギングトルク、電流波形に含まれる高調波、磁束密度に含まれる高調波の3つの要因が複合的に関わります。低減に向けては、電磁界解析による設計の最適化、ベクトル制御などによる電流波形の調整、要求特性に合うモータの選定という3方向のアプローチが有効です。なかでも、鉄芯をもたないコアレスモータは構造の段階でコギングを抑えており、静粛性や精密な制御が求められる医療機器・光学機器・セキュリティ機器などの用途で有力な選択肢になります。設計・制御・選定の各段階で対策を組み合わせれば、用途に応じた許容レベルまでトルクリップルを抑え込めます。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
お客様の製品開発における小型モータ選定でお困りの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。技術担当者が用途や要件をヒアリングし、最適なソリューションをご提案いたします。
- お問い合わせ:https://cik-ele.com/contact/







