医療機器の小型化と高精度化が進むなか、駆動源となるモータの果たす役割は年々大きくなっています。歯科治療機・内視鏡・電子ピペット・手術支援ロボットなど、医療現場で使われる多くの装置にモータが組み込まれ、装置の機能や性能を支える基幹部品として活用されている現状です。医療機器に組み込まれるモータには、一般的な産業用モータと比べて高い要求水準が課される傾向にあります。装置が求める動作精度を実現するには、滑らかな回転、低振動、長寿命、小型化など、用途に応じた最適なモータの選定が求められます。本記事では、医療機器におけるモータの代表的な用途、求められる性能、そして製品選定時に押さえておきたいポイントを解説します。これから医療機器の開発を進めるご担当者様の参考になれば幸いです。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
医療機器でモータが使われる代表的な用途

医療機器に組み込まれるモータは、装置の動作を生み出す駆動源として働いています。歯科治療機・内視鏡・電子ピペットは、いずれもモータの駆動を前提に設計された代表的な機器です。医療現場で使われる装置は呼吸の補助から検査、治療まで幅広い分野にわたり、そのいずれにもモータの駆動技術が関わっています。各装置でモータが担う役割は、用途によってさまざまです。代表的な機器を順に取り上げ、モータが装置のどこで活用されているのかを解説いたします。
このセクションで解説する内容
- 歯科治療機での先端工具の回転駆動
- 内視鏡での先端機構の精密駆動
- 電子ピペットでの液量の精密制御
各装置でモータが果たす具体的な働きを、それぞれの用途とあわせて確認していきます。
歯科治療機での先端工具の回転駆動
歯科治療機での先端工具の回転駆動には、ハンドピースに内蔵されたマイクロモータが使われています。ドリルやリーマーなどの工具を高速かつ安定して回す役割を担い、処置の仕上がりを左右する駆動部分です。歯科用のマイクロモータ(歯科用電気エンジン)の回転速度はおよそ毎分100〜40,000回転とされ、根管治療から切削まで処置内容に合わせた回転特性を選べる仕様もあります。歯科治療機のハンドピースは術者が手に持って口腔内で操作するため、操作性を踏まえた小型サイズと安定した出力が設計上の要件です。切削や研磨では高い回転数が、根管治療では細やかな回転制御が必要となり、処置内容に応じて回転域を使い分けられる設計が採用されています。歯科治療では、顎の骨を通じて響く振動やドリルの回転音が、患者の不安につながる主な要因です。静音性や振動の低減といった配慮も、ハンドピースの設計に求められます。処置品質と患者の快適性の両立を担うのが、先端工具を滑らかに駆動するモータの性能です。
内視鏡での先端機構の精密駆動
内視鏡での先端機構の精密駆動では、体内へ挿入される細い管の内部で、複数の機構を動かす技術が求められます。先端部には小型の撮像素子や対物レンズが配置され、観察方向を変える湾曲機構は操作部のアングルノブと連動して上下左右へ動く仕組みです。内視鏡は消化管や気管支など体内の観察と処置に用いられ、ビデオスコープでは先端の撮像素子が捉えた映像を電気信号として外部へ伝送します。挿入部は体内の経路に沿って進むため、先端機構の駆動には小径化と滑らかな動作の両立が求められます。先端機構を狙いどおりに動かすには、限られた空間に収まる小型のモータと、繊細で滑らかな駆動特性が前提です。内視鏡は観察と処置の両方で使われるため、先端機構には安定した動作の継続も求められます。駆動部の安定性が、検査や処置の精度を決める要素です。狭い内部空間でも安定して動くモータの性能が、内視鏡の観察品質と操作性を支えています。
電子ピペットでの液量の精密制御
電子ピペットでの液量の精密制御は、内部のピストンをモータで駆動する仕組みで成り立っています。研究開発や臨床検査の現場で使われ、微量の液体を正確に扱う性能が必要です。容量0.5μL〜10mLの範囲で液体を吸引・分注するように設計された製品もあり、操作に応じてピストンが動き、再現性の高い結果を得られます。電子ピペットは分注量をデジタル操作で設定でき、同じ条件を繰り返し再現できる構造のため、実験ごとのばらつきを抑えられます。電子ピペットでモータが担う動作は、以下のとおりです。
| 動作 | モータが担う内容 |
| 吸引 | ピストンを引いて液体を取り込む |
| 分注 | ピストンを押して液体を排出する |
| 停止 | ピストンを止めて液量を確定する |
これらの動作を精密に制御し、電子ピペットは安定した分注精度を実現します。吸引と分注の速度を細かく調整できる点も電子式の特長です。微量液体を扱う実験では、ピストン駆動の正確さが測定結果の信頼性を支えています。
医療機器のモータに求められる3つの性能

医療機器のモータには、装置の動作精度や安定性を確保するため、産業用とは異なる固有の要件が求められます。回転ムラの少ない滑らかな駆動特性、長期稼働に耐える寿命設計、機器内部に収まる小型化は、用途を問わず多くの装置に共通する性能指標です。求められる性能を満たすモータの選定では、構造ごとの特性の違いを把握する視点が役立ちます。観点ごとに分けて、医療機器のモータに求められる性能を解説いたします。
このセクションで解説する内容
- コギングを抑えた滑らかな回転特性
- 長期稼働を支える長寿命設計
- 限られた空間に収める小型化
モータ選定の判断軸となる3つの性能要件を、それぞれの背景とあわせて確認していきます。
コギングを抑えた滑らかな回転特性
コギングを抑えた滑らかな回転特性は、医療機器のモータが備えるべき性能の1つです。コギングとは、鉄芯入りモータで生じる回転ムラを指します。コアレスモータは鉄芯を持たない構造のため、磁石への引き付けにより生じるコギングがほとんどなく、滑らかに回転し、振動や騒音を小さく抑えられる点が特長です。コギングは回転位置に応じてトルクが変動する現象で、低速回転時に脈動や振動として現れます。鉄芯のないコアレスモータは回転部分の慣性が小さいため、起動と停止の応答が速く、細やかな速度変化にも滑らかに追従します。高い応答性と制御性を備えたコアレスモータは、内視鏡や歯科治療機などの医療用途に適した設計です。輸液ポンプの流量制御や内視鏡の駆動など、繊細な動作が求められる装置にとって、回転の滑らかさは制御精度を支える基本性能となります。
長期稼働を支える長寿命設計
長期稼働を支える長寿命設計は、医療機器のモータ選定で確認したい要素です。医療機器には24時間体制で稼働する装置や、使用中の故障が許されない装置があり、長寿命でメンテナンス頻度を抑えられる構造が求められます。メンテナンスのたびに装置を停止すると検査や治療の現場に支障が出るため、交換や調整の頻度を抑えた構造への要求は高い水準です。定期的な部品交換を前提としない設計は、運用面の負担軽減にもつながります。長寿命化を支える設計には、以下の手法があります。
【長寿命化を支える設計の例】
- 機械的接触が少ないブラシレスDCモータの採用
- 高品質ベアリングの使用
- 発熱を抑える高効率な構造
ブラシレスDCモータはブラシがない構造のため、ブラシと整流子の摺動による摩耗が生じず、摩耗部分が抑えられます。微小な動作を繰り返す装置では、摩耗や経年変化によるガタつきを抑えた高精度な設計も寿命確保の要素です。装置の安定稼働を長期間維持するうえで、寿命設計はモータ評価の重要な観点となります。
限られた空間に収める小型化
限られた空間に収める小型化は、医療機器のモータに共通して求められる性能です。医療機器の内部には電子基板やセンサ、冷却構造など多数の部品が密集し、モータに割けるスペースは小さく抑えられます。装置によっては薬液を蓄えるスペースや配管用のチューブも内部に収める必要があり、モータの設置領域はさらに限定的です。そのため、小型でも必要なトルクを発生できる高出力密度の設計が求められます。小型・高出力密度のモータは、機器全体のコンパクト化や設計自由度の向上に有効です。モータの駆動電圧を低めに選定できる場合は、要求される絶縁構造を簡素に抑え、コスト効率の改善や省スペース化に貢献します。機器の外形や内部レイアウトを設計する段階から、モータの寸法と出力のバランスが製品の完成度を左右します。
医療機器モータの選定で押さえる3つのポイント

医療機器に組み込むモータを選定する場面では、装置の用途要件、国際規格への適合性、開発から量産までの体制を総合的に確認する流れが求められます。近年は手術支援ロボットなど精密な位置制御を必要とする分野で需要が広がり、モータに求められる性能も高度化しています。各観点を早い段階から確認することが、開発を計画どおりに進める前提です。製品開発を着実に進めるために押さえておきたいポイントを、順に整理して解説いたします。
このセクションで解説する内容
- 用途に合致した仕様のモータを選ぶ
- 国際規格への対応を確認する
- 試作から量産まで支援できる体制で選ぶ
モータ選定の判断材料となる3つのポイントを、それぞれの背景とあわせて確認していきます。
用途に合致した仕様のモータを選ぶ
用途に合致した仕様のモータを選ぶ視点は、医療機器開発の出発点となります。装置ごとに求められる回転特性・トルク・サイズは異なり、用途に応じた最適化が求められます。主な用途と仕様要件を整理すると、以下のとおりです。
| 用途 | 求められる仕様の傾向 |
| 歯科治療機 | 高回転域に対応する駆動特性 |
| 内視鏡 | 小型サイズと低振動の駆動 |
| 手術支援ロボット | 高精度な位置制御と高トルク |
仕様の最適化では、回転数やトルクの数値だけでなく、モータの種類そのものを用途に合わせて選び分ける視点も欠かせません。コアレスモータやブラシ付きDCモータなど、構造の異なるモータが、それぞれの動作特性に応じて使い分けられています。手術支援ロボットでは、内視鏡(カメラ)や鉗子などを動かすモータが、正確なポジショニングを支える役割に不可欠です。装置の特性を見極めたうえで、モータの種類と仕様を選び分ける判断が、製品性能の実現につながります。
国際規格への対応を確認する
国際規格への対応を確認する作業は、医療機器開発で欠かせない工程です。医用電気機器ではIEC60601-1が設計の基盤となる国際規格で、基礎安全と基本性能に関する要求事項を定めています。IEC60601-1で求められる主なポイントには、以下の項目があります。
【IEC60601-1で求められる主なポイント】
- 電気的ハザードに対する保護
- 機械的ハザードに対する保護
- 温度ハザードに対する保護
- EMC(電磁両立性)
- 基本性能の維持
IEC60601-1ではモータ単体の仕様は定められていませんが、電気的ハザードや温度ハザードに対する保護、さらに付随規格IEC60601-1-2が規定するEMC(電磁両立性)の観点から、医療機器に組み込むモータの選定が機器全体の安全設計に関わってきます。例えば駆動電圧を低めに選定すると、要求される絶縁構造を簡素にできる場合があります。モータは医用電気機器の発熱源にもなるため、高効率な駆動が温度面の対策に有効です。モータと駆動回路はノイズの発生源にもなるため、EMC対策の観点からは種類や駆動方式の確認も求められます。規格要件を踏まえた仕様選定が、機器全体の認証取得を後押しします。
試作から量産まで支援できる体制で選ぶ
試作から量産まで支援できる体制で選ぶ視点は、開発を円滑に進める助けとなります。医療機器開発では、構想段階から量産までを一貫してサポートできるモータメーカーとの連携が、開発の進行と品質確保の両面で効果的です。開発の初期段階からメーカーに相談できると、仕様の調整や課題の洗い出しを早期に進められ、後工程での手戻りを抑えられます。連携先に確認したい支援内容には、以下の項目があります。
【メーカーに確認したい支援内容】
- 標準品からの仕様提案
- 用途に応じたカスタム対応
- 試作用サンプルの提供
- 開発段階での技術的フォロー
医療機器や分析装置の開発では、課題のヒアリングから標準品・特注品の提案、資料やサンプル提供まで対応できる体制が、開発担当者の検討を支えます。標準品で要求を満たせない場合でも、用途に合わせたカスタム対応の提案を受けられる体制であれば、装置側の設計変更を抑えられます。必要な支援を得られるメーカーを選ぶ判断が、開発全体の進めやすさを決める要点です。
まとめ

医療機器におけるモータは、歯科治療機での先端工具の回転駆動、内視鏡での先端機構の精密駆動、電子ピペットでの液量の精密制御など、装置の機能を支える基幹部品として活用されています。求められる性能は、コギングを抑えた滑らかな回転特性、長期稼働を支える長寿命設計、限られた空間に収める小型化が代表的です。選定にあたっては、用途要件への適合、国際規格への対応、試作から量産まで支援できる体制の3つの観点が判断軸となります。コアレスモータは鉄芯がない構造によりコギングがほとんどなく滑らかに回転し、起動と停止の応答にも優れた特性をもつ点が特徴です。タキロンシーアイ株式会社では、コアレスモータを中心に医療機器向けマイクロモータをご提案しています。医療機器向けモータの選定にお悩みの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
お客様の製品開発における小型モータ選定でお困りの際は、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。技術担当者が用途や要件をヒアリングし、最適なソリューションをご提案いたします。
- お問い合わせ:https://cik-ele.com/contact/







