モータやリレーなどの誘導性負荷を使用する際、電流を遮断した瞬間に発生する逆起電力は、電源や制御回路に深刻なダメージを与える可能性があります。特に医療機器や産業機器など高い信頼性が求められる分野では、逆起電力への適切な対策が不可欠です。
逆起電力が発生する原理を正しく理解し、モータや電源装置への具体的な影響を把握することで、効果的な対策を設計段階から組み込めます。
安全で信頼性の高い製品設計を実現するために、逆起電力への理解を深めましょう。
| 監修:タキロンシーアイ株式会社電子部品営業グループ 1919年の創業以来、プラスチック加工のリーディングカンパニーとして培った高度な技術力と知見に基づき、本記事を監修しています。当部では、超小型・高精度なマイクロモータの市場動向や最新技術を常に分析し、設計者や開発者の皆様へ付加価値の高い情報を提供することに注力しています。製品の特性を熟知した専門チームとして、正確かつ実用的なコンテンツの発信を通じて、お客様の課題解決と技術革新をサポートいたします。 |
逆起電力の発生原理とメカニズム

逆起電力が発生する仕組みを理解することは、安全な製品設計の第一歩です。
本記事では、電流遮断時に発生する過渡的な電圧スパイク(誘導キック)と、モータ回転中に継続的に発生する回転逆起電力(back EMF)の両方を扱います。
以下では、これらの発生メカニズムを3つの観点から詳しく解説します。
このセクションで解説する内容
- コイルに蓄えられるエネルギーと磁界の役割
- 電流変化と逆起電力の関係式
- モータ回転時の逆起電力の特性
これらの要素を理解することで、逆起電力が製品に与える影響を予測し、効果的な対策を設計段階から組み込めます。
コイルに蓄えられるエネルギーと磁界の役割
コイルに電流を流すと周囲に磁界が発生し、電気エネルギーが磁気エネルギーとして蓄積されます。この蓄積されたエネルギーが電流遮断時に急速に放出されることで、逆起電力が生じる仕組みです。
磁界の強さはコイルの巻数や流れる電流の大きさに比例するため、大電流を扱うモータほど蓄積エネルギーが大きく、結果として発生する逆起電力も大きくなります。
タキロンシーアイのコアレスモータは、鉄芯を持たない構造により巻線インダクタンスが小さく、電流遮断時に発生する過渡的な電圧スパイクの低減に寄与する場合があります。これにより、保護回路の負担を軽減し、より安全な製品設計が実現します。
電流変化と逆起電力の関係式
逆起電力の大きさは計算式で表すことができます。
逆起電力の計算式:V = -L ×(dI/dt)
| 記号 | 意味 | 単位 |
| V | 逆起電力の大きさ | V(ボルト) |
| L | コイルのインダクタンス | H(ヘンリー) |
| dI/dt | 単位時間あたりの電流変化量 | A/s(アンペア/秒) |
この式から、電流の変化が急激であるほど、またインダクタンスが大きいほど、発生する逆起電力は高くなることが分かります。
スイッチング動作では電流が数マイクロ秒という極めて短い時間で変化するため、dI/dtの値が非常に大きくなり、結果として高電圧の逆起電力が発生する仕組みです。
この関係式V = -L ×(dI/dt)から、電流遮断時に発生する過渡的な電圧スパイクを抑制するには、「インダクタンスを小さくする」か「電流変化を緩やかにする」という2つのアプローチがあることが分かります。
コアレスモータのように低インダクタンス設計のモータを採用することで、電流遮断時に発生する過渡的な電圧スパイクを小さくしやすくなります。
モータ回転時の逆起電力の特性
DCモータが回転すると、コイルには「回転逆起電力」が継続的に発生します。
この回転逆起電力は、モータの回転によってコイルに誘起される電圧であり、印加電圧と逆向きに作用してモータ電流を抑制する仕組みです。
回転速度が上がるほど回転逆起電力は大きくなり、印加電圧との差が小さくなるため、モータに流れる電流が減少します。
その結果、回転速度が自然に安定し、DCモータの速度制御や安定した回転の維持に寄与します。
コアレスモータは、製品仕様によっては巻線インダクタンスが小さく、遮断時の過渡的な電圧スパイク低減に寄与する場合があります。ただし、実際の抑制量はモータ定数や駆動回路(クランプ方式)に依存するため、設計段階での検証が必要です。
過渡的な電圧スパイクが低減されることで、制御回路への負担が軽減され、高速な起動停止動作でも安定した制御が可能です。特に頻繁な始動停止を繰り返す用途では、この特性が製品の信頼性向上に直結します。
逆起電力がモータと電源に与える影響

逆起電力が発生すると、制御回路や電源システムに深刻なダメージを与える可能性があります。
以下では、逆起電力が及ぼす具体的な影響について3つの観点から解説します。
このセクションで解説する内容
- トランジスタやFETへのダメージ
- 電源回路への逆流と電圧上昇
- 制御回路の誤動作とノイズ発生
これらの影響を未然に防ぐことで、製品の長期的な信頼性を確保できます。
トランジスタやFETへのダメージ
モータ駆動回路のスイッチング素子は、逆起電力による過電圧で破壊されるリスクがあります。
トランジスタのコレクタ-エミッタ間耐圧や、FETのドレイン-ソース間耐圧を超える電圧が印加されると、素子は瞬時にブレイクダウン状態となり、大電流が流れて熱破壊が発生するおそれがあります。
耐圧仕様を超える使用は素子寿命を著しく短縮させるだけでなく、最悪の場合は初回動作で即座に故障し製品全体の信頼性を損ないかねません。
電源回路への逆流と電圧上昇
逆起電力により電源側へ電流が逆流すると、電源電圧が上昇し過電圧保護回路が作動する場合があります。特にブリッジ回路を使用している場合は逆流経路が形成されやすく、電源出力の低下やシステム全体の停止を招くおそれがあります。
電源保護のためには逆流防止対策が不可欠ですが、保護回路の追加はコスト増加や回路の複雑化を招きます。
低インダクタンス設計のモータを採用することで、逆起電力による逆流を低減し、シンプルで信頼性の高い電源設計が実現可能です。
制御回路の誤動作とノイズ発生
逆起電力による過渡的な電圧スパイクは電気的ノイズとなり、周辺回路に悪影響を及ぼします。
センサー信号の誤読み取りや制御マイコンの誤動作を引き起こし、システム全体の信頼性を低下させる要因です。
コアレスモータは、電流遮断時に発生する過渡的な電圧スパイクを低減することで、ノイズ源そのものを小さくし、周辺回路への影響を最小限に抑えられます。
逆起電力への効果的な対策方法

逆起電力による回路への影響を防ぐには、適切な保護回路の設計が不可欠です。
ダイオード、ツェナーダイオード、CRスナバ回路、バリスタなど、複数の対策方法が存在し、それぞれに特徴があります。また、モータ自体の設計による根本的な対策も有効です。
以下では、実務で活用できる効果的な対策方法を3つの観点から解説します。
このセクションで解説する内容
- ダイオード単体で保護する
- ツェナーダイオードを併用して高速復帰させる
- CRスナバ回路とバリスタを活用する
用途や復帰時間の要求に応じて最適な保護方法を選択することで、信頼性の高い製品設計が実現します。
ダイオード単体で保護する
コイルと並列にダイオードを接続する方法は、もっとも基本的で広く使用されている対策です。
逆起電力発生時の電流をダイオード経由で電源に還流させ、電圧上昇を抑制します。
ダイオード保護回路の特徴
| 項目 | 内容 |
| メリット | シンプルな回路構成、低コスト、部品点数が少ない |
| デメリット | 復帰時間が長くなる、高速スイッチングには不向き |
| 選定基準 | 電源電圧以上+サージ・ばらつきの余裕を見込んで選定 |
| 低電圧回路の場合 | 電源電圧の約3倍程度の逆耐圧でも使用可能 |
この方法は医療機器や産業機器など、高い信頼性が求められる用途で広く採用されています。
ダイオードの逆耐圧は、少なくとも電源電圧以上を満たし、サージや設計余裕を見込んで十分なマージンを取って選定することが重要です。
ツェナーダイオードを併用して高速復帰させる
通常のダイオードにツェナーダイオードを直列接続することで、クランプ電圧を高めて復帰時間を短縮可能です。コイルにかかる逆電圧が大きくなるため電流の収束が早まり、高速スイッチングが必要な用途に適しています。
ツェナーダイオード電圧の選定を誤ると、スイッチング素子を保護できないだけでなく、ツェナーダイオード自体が破損するおそれもあるため、十分な検証が必要です。
CRスナバ回路とバリスタを活用する
コンデンサと抵抗を組み合わせたCRスナバ回路は、AC回路でも使用可能な対策方法です。
コンデンサが急激な電圧変化を吸収し、抵抗がエネルギーを熱として消費することで、逆起電力による過渡的な電圧スパイクを抑制します。
CRスナバ回路とバリスタの特徴
| 対策方法 | 適用回路 | 主な特徴 |
| CRスナバ回路 | AC/DC両対応 | 電圧変化を緩やかにし、スパイクを抑制 |
| バリスタ | AC/DC両対応 | 特定電圧以上で抵抗値が急低下し過電圧を吸収 |
バリスタは特定電圧以上で急激に抵抗値が下がる素子で、過電圧を効果的に吸収します。
産業機器やセキュリティ機器では、複数の保護素子を組み合わせることで、より高い保護効果が期待できる仕組みです。
CRスナバ回路は部品点数が増えるため回路が複雑になりますが、ノイズ抑制効果が高く、周辺回路への影響を最小限に抑えられます。
バリスタは応答速度が速く、突発的な過電圧に対して瞬時に反応するため、雷サージなど外部からのノイズ対策にも有効です。
まとめ

逆起電力はコイルに流れる電流が変化する際に発生する現象で、モータ停止時には印加電圧を大きく超える過渡的な電圧スパイクになる場合があります(値はL、遮断速度、クランプ回路で変わります)。
制御回路のトランジスタやFETの破壊、電源への逆流による電圧上昇、制御回路の誤動作など、深刻な影響をもたらすため、ダイオード保護回路やツェナーダイオード併用回路、CRスナバ回路などの適切な対策が不可欠です。
保護回路の選定では、用途に応じた復帰時間やコストを考慮し、最適な方法を選択することが重要です。また、モータ選定の段階から逆起電力を考慮することで、保護回路を簡素化し、より安全で信頼性の高い製品設計が実現します。
製品情報・お問い合わせ
タキロンシーアイのマイクロモータ製品については、以下のウェブサイトで詳細をご覧いただけます。
- 製品サイト:https://cik-ele.com/
- コアレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/coreless_motor/
- ブラシレスモータ:https://cik-ele.com/products/list/brushless_motor/
- ギアードモータ:https://cik-ele.com/products/list/gearhead/
- エンコーダ:https://cik-ele.com/products/list/encoder/
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- お問い合わせ:https://cik-ele.com/contact/
本記事で使用するDCモータの基本公式は、以下の学術的・技術的文献に基づいています:
- 電圧方程式「V = Eb + Ia Ra」
National Institute of Technology, “D.C. Motor” https://nit-edu.org/wp-content/uploads/2021/09/ch-29-Dc-motor.pdf
- トルク方程式「T = Kt × I」
MIT OpenCourseWare, “Magnetic electro-mechanical machines”







